<コラム10年目を迎えて>
「デンマーク・日本いろいろ」コラムをオープンしてから今年で10年目。塵も積もれば山となるもので、今回が50本目になります。これまでほぼ2か月に1度のペースで載せてきましたが、昨年秋から少々滞って今日に至っています。言いわけに近い個人的理由は別として、記事を書きたくても書きにくい状況が今あることも事実です。
それは、先月就任したばかりの47代アメリカ大統領が、就任早々(というより就任以前から)、「安全保障上の理由により、グリーンランドをどうしても手に入れたい。デンマークがこの交渉に応じなければ、関税措置や軍事的手段に出ることも辞さない。」という強迫とも捉えられる発言を繰り返し、デンマーク政府に詰め寄ってきたエピソードです。
このニュースは、日本のメディアでもかなり取り上げられた(ている)ので、なぜ今デンマークがこのことで注目されているか、ご存知の方も多いでしょう。実は、これと似たエピソードは、6年前、「デンマーク・日本いろいろ」コラム(2019年9月22号「Youは何しにデンマークへ?」)ですでに取りあげています。当時デンマーク首相が拒否して、一端退けた懸案を、トランプ大統領は、今回の2度目の就任を機に、再度持ち出したのです。
デンマークとグリーンランドの関係、3月に実施されるグリーンランド議会選挙、デンマークとアメリカの関係、そして注目される北極圏の立場など、お知らせしたい重要テーマが多々ありますが、現在これらすべてが、あまりにも流動的な状況なので、もうしばらく様子をみることにしました。
ということで、今回は、まったく異なるテーマ「ハンドボール」についてお送りします。
<ハンドボール世界選手権大会でデンマーク男子優勝!>
ハンドボールの男子世界選手権大会が、年明け1月14日から約3週間にわたり、クロアチア・デンマーク・ノルウェーを舞台に繰り広げられました。参加したのは、アジア(5)、アフリカ(5)、北米(2)、南米(2)、オセアニア(0)、欧州(18)計32チームで、日本も名を連ねていました(予選3試合で敗退)。
地域別参加国の数からも、ヨーロッパでさかんなスポーツであることがわかります。個人的には、次女が中学生の頃ハンドボール・クラブに所属していたので、当時何度か試合を観戦したことはありますが、その程度で、特に強い関心があるわけではありません。 ただ、デンマークでは、ハンドボールはサッカーに次ぎ最も人気のあるスポーツと言えるようで、全国各地にクラブがあり、子どもからシニアまでファンが多く、今回の世界選手権大会の模様は、ほぼ毎日テレビ中継されていました。スポーツ好きな夫は、デンマークが出場する試合は殆ど欠かさずフォローし、テレビの前に釘付けになって一喜一憂していました。
今回デンマークのナショナルチームは、長年大活躍してきたベテラン選手2名が大会前に引退して、若手選手でその穴が補足できるか懸念されていました。しかし大会スタート時から、新人選手がその懸念を払拭する見事な活躍ぶりを見せ、若返ったチームが一致団結できたことが、勝因に繋がったようです。ハンドボールが、デンマークの小学生から大人まで、非常に厚い層で普及していることが、底力となっています。
これでデンマークの男子ナショナルチームは、2年毎に開催される世界大会で、2019年、21年、23年に続き4連覇という偉業を成し遂げたわけです。
優勝決定戦(デンマーク対クロアチア)は、ノルウェーのオスロで行われました。チームが帰国した際、彼らは特別に用意されたバスに乗り、空港からコペンハーゲン市庁舎までパレードをおこないましたが、なんと市庁舎には、昨年即位したばかりのフレデリック国王も、市庁舎前広場を埋め尽くした大勢のハンドボールファンとともに彼らを出迎えました。
優勝を祝うメンバー
市庁舎前に詰めかけた大勢のファン
<コペンハーゲン市庁舎のパンケーキ>
コペンハーゲンの市庁舎には、20世紀初期から伝わる一風変わった伝統があります。それは、重要な行事や盛大なレセプションなどが開催される折に、この市庁舎特有のレセピーで焼かれた手造りパンケーキが供されることです。今回も例外ではなく、選手たちはまず市庁舎内で国王、市長はじめとする一連の関係者とともに、このパンケーキを味わい、勝利を祝いました。その後選手たちは、優勝トロフィーを手に、代わる代わる市庁舎のバルコニーに姿を現し、広場を埋め尽くしデンマークの国旗を手にしたファンの歓声に応えました。ファンの中には、ただこれだけのために、遠方から数時間もかけてやってきた人もいたようです。熱狂的なファンは、世界中どこにもいるものですね。
有名なコペンハーゲン市庁舎のパンケーキ
<国際競技でのこれまでの成績>
ハンドボールはOLの種目にも入っており、デンマークの女子ナショナルチームは、1996年、2000年、2004年のOLで金メダル連続獲得という偉業を成し遂げています。また男子は、2020年東京OLで銀メダルを獲得。昨年24年のパリOLでは、男女とも地元フランスチームが優勝。強豪チームとしては、ドイツ、スウェーデン、ノルウェー(特に女子)、クロアチアなどが挙げられるようです。
<ハンドボールの起源>
この記事を書くにあたり、少しハンドボールのことを調べていて驚いたことがあります。それは、このスポーツの発祥の地がデンマークだということです。この驚きを夫に告げたところ、「これは誰もが知っている常識なのだけれど、知らなかったの?」と逆に驚いた様子でした。
調べたところによると、ハンドボールは、1897年にラスムス・エアンスト(R.N.Ernst)というデンマーク人がイギリス留学中にサッカーを学び、デンマーク帰国後、教育実習生として赴任したニュボー(Nyborg)という町で、生徒にサッカーを教えたが、プレー中に生徒が校舎の窓ガラスを割ってしまったため、校長からサッカーを禁止された。そこで彼は、「手でボールを扱えば、安全かつ正確にプレーできるのでは」と提案し、校長の許可を得た。これがデンマークにおけるハンドボールの起源とされているとのことです。
サッカーは、デンマークで最も盛んなスポーツへと発展ましたが、デンマークでは真冬に屋外サッカーができないため、その間、屋内でできる競技のニーズがあり、その一つとしてハンドボールが盛んになったようです。さらに同じような気候条件の他の北欧諸国へと広がり、現在のような7人制ハンドボールが確立されました。
これとは別に、20世紀初期にはドイツで、女性向けの球技として、11人制のハンドボールが考案されたようで、この流れのハンドボールも一時期オリンピックで採用されましたが、最終的には、デンマーク発祥のスタイルに統一されたという経緯があります。
デンマークに暮らして半世紀。ここに来て、また一つデンマーク人の常識を学ぶことができました。