デンマークの我が家(娘一家を含めたファミリー)では、今年人生の大きな節目を迎えるメンバーが何人もおり、それを祝って、家族・親戚・友人たちが集うパーティーが何回となく実施されます。具体的には、@初孫と2番目の孫の18歳の誕生日、A4番目の孫の堅信式、B婿の50歳の誕生日、C私たち夫婦の金婚式です。
考えてみると、日本にも昔から人生の節目を祝う伝統行事が沢山あり、21世紀の今もなお脈々と続いて、日本人の生活文化になっていると感じています。外国暮らしの私でもすぐ思い浮かべることができる代表的なものだけでも、歳の若い順に並べると、お宮参り・初節句・七五三・学校の入学/卒業式・成人式・結婚式などがあり、誕生日では、60歳(還暦)、70歳(古希)、77歳(喜寿)、88歳(米寿)、99歳(白寿)そして100歳など長寿を盛大に祝う家庭が多いのではないでしょうか。また結婚記念日だと、銀婚式(25年)・金婚式(50年)・ダイヤモンド婚式(60年)のお祝いをよく耳にします。このような伝統文化が世代を超えて継続されることの意義は大きいと思います。
では、デンマークはどうか、と言いますと、人生の節目を祝う行事は、こちらにも多々ありますが、何をもって人生の節目と考えるか、そしてそれをどのように祝うかは、当然のことながら、日本とはかなり異なります。日本に神道や仏教に関連する行事が多いように、デンマークには、デンマーク国教会*に関連する宗教的な行事がいくつか挙げられます。
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Danish National Church、キリスト教、ルター派に属するプロテスタント
王(現在はマルガレーテ2世女王)が長を務め、教会省が管理し、デンマーク議会が最高立法機関。現在国教会メンバーは、国民のおよそ80%を占めるといわれている。
その代表的なものに、まず洗礼式があります。これは、希望すれば何歳でも受けることができますが、一般的には生後数ヶ月の赤ちゃんが受ける儀式で、通常の教会ミサの中でおこなわれます。伝統的には、赤ちゃんは白色の長いドレスをまとい、教会前方に置かれた洗礼台の所に“father”と呼ばれる保証人の役割を担う人(数名)と両親が集まり、“godmother”または“godfather”に選ばれた人が、儀式の時に赤ちゃんを抱いて、子どもの名前と信者となる誓いを牧師に告げます。Father/godmother/godfatherは、親のきょうだいや親友などの中から選ばれるのが一般的です。彼らは、「両親からの信頼が厚く、子どもを末永く守ってくれる人」を意味するため、選ばれることは非常に光栄なことであると同時に、その子の長い人生において、ある種の(昔は宗教的、現在はむしろ道徳的/人情的な)責任を負うことにもなります。
我が家の場合は、夫家族が全員国教会メンバーであるため、必然的に二人の娘も生まれて数ヶ月後に洗礼を受けましたし、孫たちも全員洗礼を受けています。
教会での儀式が終わると、洗礼式のホームパーティーが盛大におこなわれます。娘たちの洗礼式には、日本の私の両親も参加して祝ってくれました。宗教が異なっても、孫たちの人生初の節目となる行事に立ち会い、彼女たちの健全な成長と明るい人生をデンマークの家族とともに祈ることは、日本人祖父母にとり、大きな意味を持っていたのだと思います。
18年前におこなわれた初孫の洗礼式
Godmotherに抱かれた孫と両親とfatherたち
そして子どもたちが14〜15歳になると、今度は堅信式がおこなわれます。これは、洗礼で信者となった者が、子どもから青年へと移行する時期に、神から再び信者として認めてもらい、神は信者を深い愛情で末永く見守ることを確認する、そんな宗教的意味合いを持つ儀式だといえるでしょう。ただ、周囲の大人たちが儀式に秘める想い(ますます健全に、立派な大人へと成長してほしい。)という点では、昔日本でおこなわれていた元服式に近いものを感じます。デンマークでは、堅信式を受けることを自ら決めた若者たちは、一年近く毎週教会に通い、堅信式に向けての準備講義を牧師から受けることが義務付けられています。
堅信式は5月ごろ開催されることが多く、今年受けることになった孫のセレモニーに立ち会うため、私も家族とともに教会に出向きました。この日堅信式を受けた若者は40名ほどだったでしょうか、女子は思い思いの白いドレス、男子は背広の晴れ姿に身を包み、よそ行き姿の家族や友人たちも大勢つめ掛け(一家族8名までの人数制限)、教会内は晴れ晴れとした明るい雰囲気に包まれていました。クライマックスは、若者たちが祭壇前でひざまずき、牧師が一人ひとりの頭上に手を差し伸べて神からの言葉を伝える場面でしょう。子どもや孫の晴れの姿を遠くから眺めながら目を潤ませている人がなんと多かったことか。勿論私も、その例外ではありませんでした。教会でのセレモニーが終わり、教会前で家族や友人たちから祝福を受けると、次は待ちに待ったパーティーです。娘たちの時代は、ホームパーティーが一般的でしたが、最近は、レストランなど別の会場を借りて、大人だけでなく当人の友だちも招いて盛大に祝うケースが多くなってきているようです。時代とともに、セレモニーの意味合いや祝い方が少しずつ変化してきているようです。
教会での堅信式
式を終え両親から祝福を受ける孫
胸元には母が昔自分の堅信式で付けたネックレスが
次は誕生日ですが、冒頭で触れたように、デンマークでは18歳の誕生日は人生の大きな節目と考えられており、盛大に祝います。それは、18歳が成年年齢であるからで(1976年〜)、まだ学生であっても、この日からは一人前の大人とみなされ、選挙権(投票権および被選挙権)を獲得しますし、運転免許もフルに有効となり、また本人の意志で結婚も可能となるわけです。初孫の18歳の誕生パーティーは、彼が所属するヨットクラブのホールに約50人のゲスト(半分は彼の友だち)を招いておこなわれ、若者たちは大人客が退出したあとも、夜が更けるまでダンスに興じていたようです。
その後の誕生日としては、特に50歳、60歳、70歳、75歳、80歳、90歳、100歳を大きな人生の節目と考える人が多いようです。デンマークでは、50歳や60歳の誕生日を自宅の庭にテントを張って、大勢の親戚・友人・知人を招いて盛大に祝う人が多く、私たち夫婦もそれに倣いました。この国では祝ってもらう本人がパーティーを企画するのが一般的なので、そのための準備や費用もかなり掛かり、また体力的にも結構大変です。そのため70歳の誕生日ともなると、規模を大幅に縮小するとか、パーティーを家族旅行に替えるケースも増えていて、私たちも後者のスタイルを取りました。
そして結婚記念日の場合、デンマークでは、銅婚式(銀婚式の半分で12年半)、銀婚式(25年)と金婚式(50年)を盛大に祝うケースが多いようです。勿論ダイヤモンド婚(60年)を祝うカップルもいると思いますが、長寿国日本と異なり、デンマークではそこまで長く結婚生活が続くケースはそれほど多くないようです。今年結婚50年を迎える私たちですが、70歳の誕生日の時と同じように、今回も家族旅行の形で祝うことにしました。これをもって、自分たちで企画する人生節目の祝いごとはおしまいにしようと考えているのですが、どうも孫たちには、「来年75歳のお誕生日も、家族全員の海外旅行でお祝いしよう!」などと勝手に期待している節がみられます。私たち夫婦は、もうそろそろ若い世代に企画して祝ってもらっても良いのでは、と思っているのですが。