デンマーク・日本いろいろ 第40号
エネルギー危機をどう乗り切る まず今出来ることは? No.1
2022年9月
<暖房小切手>
8月中旬、私たち夫婦の銀行口座に、突如前触れもなく、6000クローネ(現為替レートで約11万円)が「労働市場付加年金」(Arbejdsmarkededts Tillægspension、通称ATP)という公的組織から振り込まれ、明細には「暖房小切手」と記されていました。「これは一体どういうこと?」とビックリしましたが、同日のメディア報道で、その真相が明らかになりました。
これは、ロシアが欧州への天然ガス供給を停止したことによって発生した欧州エネルギー危機到来がそもそもの原因。デンマークでも近ごろガスや電気代が急上昇しているため、経済的負担が特に大きくなると予測される世帯に対して、政府が取った援護策です。今回の「暖房小切手」(一時金、一律金額、免税)は、以下のような一定条件を満たす40万世帯に支給され、総額予算は約480億円とのこと。例年であれば、低所得世帯のみが対象の「暖房小切手」が、今年は特別大幅に拡大されたことになります。
@
2020年の年収が約1300万円以下の世帯で、
A
21〜22年冬の期間に暖房費負担が大幅に増し、
B
暖房用燃料として主に天然ガスを利用している世帯(地域ごとに決められている)
早速我が家の最近のガス代をチェックしたところ、1年前と比較して約6000クローネ上昇していることが判明しました。ということで、我が家としては、値上がり分が今回の支給でほぼ帳消しとなったので、めでたしめでたしなのですが、数日後の報道によると、受給対象者であるはずなのに受け取っていない世帯がかなり出て、その人たちからのクレームが相次ぐというひと悶着がありました。良かれと思って早急に対処した今回の政府のアクションでしたが、多少ケチが付いてしまったようです。でも、個人番号システムが普及し、デジタル社会のデンマーク。公的機関と市民間の支払いは全てオンライン化され、スピーディーかつ効率的。これに文句をいう市民は一人もいません。
<右肩上がりの消費者物価指数>
9月に入り、8月の消費者物価指数がデンマーク統計局から公表されましたが、前年度比で何と8.9%上昇。これはデンマークにとり、1983年以来39年ぶりの高レベルです。日本の同月指数は2.8%で30年11か月ぶりですから、デンマークの消費者物価インフレがいかにスゴイかがわかります。「今回の急速なインフレ上昇は、過去の世界大戦や70年代のオイルショック時に匹敵する。」と語る経済専門家もいるほどです。
デンマークの消費者物価指数(青線)の推移(1981年〜2022年) 黒線:コアインフレーション
出所:デンマーク統計局
商品は平均13.4%値上がりしており、特に食料品、電気・ガス・ガソリン代の値上がりが著しいようです。そのため、多くの家庭では、これまでになく節約ムードが広がって来ており、生活必需品や食料品の買い物一つとっても、最寄りの複数店舗の価格をインターネットで調べた上で、買いたい品の値段が一番安い所で買う傾向が強まっています。
<オイルショックの教訓を次世代に>
ある日刊新聞が、1973年のオイルショックを経験した世代に、当時を振り返り、どのような節約アクションを取ったか尋ねたところ、数百もの回答が寄せられたとのこと。その中から40項目が選ばれて掲載されました。エネルギー危機を経験したことのない若い世代がこれを読んで、エネルギー節減のヒントにしてほしいと考えたようです。
その中でも面白い/デンマーク人らしい案をいくつかご紹介します。

  • 親しい人たちと食事グループを作り、当番制にして一緒に食べよう。別の家で食事をするときは、家の室内温度を下げよう。
  • 週一回テレビを観ない日を作り、照明を消し、ロウソクを灯して家族団らんの夕べを作ろう。
  • フローリングの部屋では、掃除機を使わず、ほうきで掃除。
  • 料理は2日分まとめて作る。
  • クリスマスクッキーを焼く量は平年の半分に。
  • 車の運転は、大型トラックを運転しているつもりで、スムーズに速度制限を厳守。
効率の良い節減方法として、メディアを通じて奨励されている事項としては、

  • 家屋の断熱効果をチェックし、改善する。
  • 室内温度を下げる。1度下げれば暖房費5%節減につながる。外出中は、特に屋内温度を下げる。
  • 水道(特にお湯)の使用をセーブ。浴槽は使わず、シャワー浴は一人5分以内。
  • 部屋の換気は短時間に効率よく。
  • 洗濯機・皿洗い機等は、電気代が安い時間帯に使用。
  • 照明はすべてLEDランプに切り替える。必要な場所のみ点灯。
  • 定期的に電気やガスの消費をチェック等々。
<デンマーク人は節減上手?>
気候/エネルギー省下の第三セクターで、デンマークのエネルギー状況を監視しているエネルギーネット社(Energinet)の調査によると、デンマークの個人電気消費は、これまでの7カ月間に、昨年度比で9%低下したとのこと。近年ガソリン車を電気自動車に切り替える世帯や、暖房エネルギー源としてヒートポンプを導入する世帯が急増しているため、本来なら電気消費が上昇するはずのところ、逆に低下しているのは興味深い現象です。
同じような傾向は各世帯のガス消費にも見られ、今年上半期に昨年度比でやはり9%低下しました。どうもデンマーク人は、エネルギー消費の節減に長けているようです。 これはあくまで私見ですが、これほどデンマーク人が(今の所)エネルギー節減に一定の効果を上げているのには、いくつかの要因が考えられると思います。
デンマークは、すでに19世紀から代替エネルギーとして風力発電に注目していたが、1970年代から本格的に国策として風力発電に力を入れ、今では電気消費量の約43%を占めている。また工場・廃棄物処理場等から出る余熱を利用した地域暖房が広く普及しており、効率の良いエネルギーシステムが構築され、国際的にもエネルギー先進国として知られている。これらが示すように、デンマーク人は環境・エネルギー問題に以前から高い関心を持ち、一般市民の意識が高い。
北国であるため、ほぼ全ての家屋はセントラルヒーティングで、各部屋の温度管理がしやすい。また断熱効果が高く、エネルギー評価の高い家屋ほど、売却時にも有利。
ロシアへのエネルギー依存から、一日も早く脱却したいという気持ちが非常に強い。
<公的機関がお手本を示せ>
欧州委員会は、ロシアからのガス供給が停止される以前から、全ての加盟国に対し、この冬のガス消費を15%節減するように通達を出していました。そして今、各加盟国は、その実現に向けて、必死に対策を検討し、実践に移し始めています。
デンマーク政府は、国内の大規模生産企業50社に対し、万一国内のガス備蓄量が危険レベルに達した場合は、即時これら企業への供給を停止することを告げ、各社にガスに代わるエネルギーを自力で確保するよう要請しています。
また数日前の気候/エネルギー大臣、経済大臣と税務大臣による記者会見で、老人ホーム・保育園・病院を除く全ての公的建築物は、10月1日から、@室内温度を19度までに抑える、A室内温度が19度以下になるまで暖房を入れない、B屋外の不要な照明は全て消すなど、大幅なエネルギー節減対策に取り組むよう要請が出されました。義務教育の学校も、この例外ではありません。今全国各地の学校児童たちは、自分たちに何が出来るかを真剣に話し合っています。
今回の深刻なエネルギー危機を乗り切るためには、産官民が一丸となって取り組む必要がありますし、EU諸国の連帯・相互協力も不可欠です。と同時に、市民一人一人の自助努力も求められています。我が家でも、照明や室内温度管理はもちろんのこと、刻々と変化する電気料金を日々アプリで調べた上で、洗濯機や皿洗い機を回す時間帯を決めるなど、今シーズンのエネルギー節減短期戦に臨んでいます。 今年の冬は、厚手のセーターが活躍しそうです。
電気スポット料金アプリで日々チェック