今年日本では、コロナ・パンデミックの中で、一年延期されていたオリンピック・パラリンピックが異例形式で開催され、さらに首相辞任、自民党総裁選、新内閣結成、そして記録的短期決戦での衆議院総選挙と、まさに怒涛のような日々が続いてきたように思います。
今回の総裁選挙では、これまで政府がおこなってきたコロナ感染対策をはじめとする諸政策への国民の不満が影響し、政権交代もしくは与党がかなり議席を失う可能性があるかもしれないなどと言われていたにもかかわらず、自民党が単独過半数を取り、与党の絶対安定多数という結果に終わりました。
在外日本人として私も清き一票を投じ、選挙経過をずっとフォローしてきましたが、今回の総選挙の投票率が55.93%にとどまり、さらに女性当選者が465議席中45人、比率にして9.7%という結果をみて愕然としてしまいました。
案の定、こちらデンマークの主要メディアは、日本の選挙結果、特に投票率の低さと女性政治家の少なさについて相次いで一面を割いて記事を掲載しました。
2021年10月31日付 Berlingske
見出しは、「経済大国の有権者には女性政治家の姿ははるか遠くに」とあり、ここには以下のようなことが書かれています。
安倍元首相は「女性が輝く社会」創設を以前重要課題にしたが、その公約は今もなお実現されておらず、逆にLDP(自由民主党)の国会議員の90%以上は男性で、重要ポストはほぼ男性が占めている。岸田首相の下でも変化はまず起きないものと思われ、21人の閣僚中女性はたった3人。さらに既婚女性の別姓を認めない古い法律を変えるつもりもなさそうだ。毎年発表されるジェンダーギャップ指数によれば、日本は156か国中120位で、シエラレオネとグアテマラがそれに続く等々・・・・
さらに、別の新聞11月1日付Politikenの国際欄には、次のような記事が掲載されました。見出しは、「26%の国民からしか支持されず、世論調査結果が芳しくなくても、LDPはまたもや日本の政権を勝ち取った。過去の悲劇・カメレオン戦略そして低い投票率が勝利の要因」というもので、26%というのは、毎日新聞が今年8月に実施した世論調査におけるLDP支持率を指しています。以下が記事の要旨です。
- これだけ低い支持率でもLDPが勝利したのは、コロナ危機への対応が悪くても選挙期間中に感染者数が減少したこと。10年前の東北大震災の悲劇は未だに日本社会に深い傷跡を残しており、当時の政府(現野党勢力)の復興政策が強く批判されたので、政権交代は時期尚早と考える有権者が一部にあったこと。
- またLDPの総裁選挙で候補者の一人は原発廃止や夫婦別姓の自由を支持するのに反して、もう一人は原発支持、別姓反対を主張したことでもわかるように、LDPはさまざまなものを販売しているから、国民は野党から別なものを購入する必要性をあまり感じない。(著者:どうもこれがカメレオン戦略のことらしい)
- 野党第一党の支持率は10%以下で非常に低く、支持政党を持たない人が 42%もいて、これらの人びとの多くが、与党には不満でも野党も信頼できないとして投票しなかったこともLDPの勝因だろう。
- 投票率はたった55.93%で、これは第二次世界大戦後3番目に低い数値だ。
また第一次岸田内閣が結成された10月には、やはり一面を割いて、次のような見出しの記事が掲載されました。
「日本の<アベノミクス>はあらゆる面でカタストロフィであった。そしてここから学ぶことは多い。公共経費拡大と紙幣増刷による財政フェストで景気上昇が図れると信じることには慎重にならざるを得ない。」 2021年10月20日付Berlingske
さらに7月には、オリンピック開催時期のタイミングで、オリンピックに期待していた経済効果が全く得られなかったことから始まり、過去数十年にわたる日本経済と社会構造の問題点や不思議を多くのグラフを引用して分析した記事が2面にわたって掲載されました。
この見出しは、「日本は日昇る国なのか日沈む国なのか?」でした。
2021年7月24日付 Berlingske
8月には、やはり一面を割いて、「日本の厳しい挑戦:ここでは大人用おむつが子ども用おむつより多く販売されている」と題して、
日本は世界に類を見ないユニークな人口問題を抱えており、世界一高齢社会であると同時に人口減少が起きている。問題解決の一つは、より多くの女性が労働市場に進出することだが、日本は依然として男性優位の社会が続いている。海外からの労働力はあまりポピュラーでないが必要だ。現在の日本は、ヨーロッパもいずれ経験することになる未来像を映し出している。 とあります。
2021年8月6日付Berlingske
これらの記事いずれにも共通しているのは、日本の政治・経済・ジェンダー問題などにかなり高い関心を寄せているものの、決してポジティブには見ていないということです。ただこれは、今に始まったことではなく、近年日本関連記事が新聞に載ると、そのほとんどが同様にクリティカルな見方をしています。これはメディアの政治色いかんにかかわらず、共通したスタンスのようです。
1980年代のバブル期には、ヨーロッパ諸国(少なくともデンマーク)は、日本の経済力と成長・発展に畏敬の念を抱き、日本に学ぼうとする姿勢が見られました。その時代を体験した者にとっては、近年の海外から見た日本社会の評価に一抹の寂しさを感じますが、このように日本が海外から見られている、今やお手本でなく反面教師になっているということを日本人は知るべきですし、真摯に受け止めなければいけないと思い、敢えてこの記事を書きました。
最後にもう一つ、当地の旅行会社が企画する日本への団体旅行案内の新聞広告をここに紹介します。日本を象徴する写真としていまだに芸者ガールとフジヤマが使われているのには、ほとほとガッカリさせられます。しかも写真の女性の着物姿は、どう見てもおかしくありませんか?