世界中がコロナ・パンデミックに振り回される状況が、一年以上続いています。前回でコロナ関連記事は終了するつもりでしたが、未だにどこの国もコロナ変異株感染拡大とワクチン接種の追いかけごっこ状態にあり、その取り組み方が国によりあまりにも大きく異なるので、敢えてここに、デンマークにおけるワクチン接種状況をお知らせします。
<デンマークのワクチン接種カレンダーとグループ分け>
デンマークでは、昨年12月27日からワクチン接種が開始されました。そこで最優先されたのは、ナーシングホームの入居者でした(グループ1)。デンマークの場合、ホーム入居者の多くが、重度認知症患者であるため、身体的にも精神的にも、コロナ禍という非常事態への対応が非常に難しい方たちです。感染すれば重症化・致死率が高く、これが医療逼迫にも繋がると考えた国の判断でした。このグループの人たちは、すでに2月中旬までに2回の接種を終えており、今では、ほぼコロナ前の生活に戻ることができて、待ち望んでいた家族との面会も復活しています。
デンマークでは、ワクチン接種にあたり、16歳以上の全国民を10グループに大別し、希望する人には全員接種が無償で受けられるシステムが構築されています。
上の表は、4月14日現在のワクチン接種カレンダーで、濃緑は接種終了、緑は進行中、薄緑(斜線)は今後の予定を意味しています。10グループの内訳は次の通りです。
1. 老人ホーム入居者
2. 在宅介護サービスを受けている65歳以上の市民
3. 85歳以上の市民
4. 医療・高齢者ケア・一部福祉支援従事者
5. 特にリスクの高い患者(癌患者等、高齢者に限らず)で選択された人
6. 特にリスクの高い人の近親家族で選択された人
7. 80~84歳の市民
8. 75~79歳の市民
9. 65~74歳の市民
10a.60~64歳の市民
10b. 55~59歳の市民
10c. 50~54歳の市民
10d1. 16~19歳および45~49歳の市民
10d2. 20~24歳および40~44歳の市民
10d3. 25~29歳および35~39歳の市民
10d4. 30~34歳の市民
1から6までのグループに該当する人は、基本的には現在(4月中旬)までに全員2回の接種を終了しており、75歳以上の人も、かなりの人が1回目接種を終了しています。そして今は、私を含む65歳以上のシニアに順番が回ってきており、多くの該当者が接種の予約を済ませました。
このカレンダーでもわかるように、デンマークでは、リスクの高い人への接種が終了した時点からは、出来る限り短期間に、多数の市民の接種を混乱なく、効率よく実施するために、年齢別におこなうことが決まりました。その中で注目したいのは、最年少である16~19歳や若者世代の時期が繰り上がっていることです。詳しい理由は明らかにされていないので、あくまでも想像ですが、若者たちは夏休み(6月後半~8月中旬)中の移動やその直後の転居・環境変化が激しいためかもしれません。今年16歳になる孫の1人は、8月から地方の全寮制学校に入学するので、それまでにワクチン接種が終われば安心出来ます。
今後もワクチン輸入状況やワクチンの安全性などの治験結果次第で予定が変更される可能性はありますが、今の所は、16歳以上の接種希望市民全員が、8月上旬までに接種を終えられる予定です。
<ワクチン接種を支えるデジタルシステム>
2020年10月29号で、デンマークのパーソナルナンバーおよびデジタルシステムをご紹介しました。パーソナルナンバー(日本のマイナンバーに相当)システムは1968年にスタートし、公的医療・福祉サービスをはじめとする多くの分野で使用されていて、市民生活には絶対に欠かせないものになっています。そしてデンマークは、世界的にもデジタル化が最も進んでいる国にあげられ、IMD(International Institute for Management Development)が毎年発表しているデジタル競争力ランキング2020年版では、アメリカ、シンガポールに次ぎ3位にランクされています(日本は65か国中27位で、前年比マイナス4)。
パーソナルナンバーとデジタルシステムの普及で、行政機関と市民間の情報通信や公的サービス受給の効率化が急速に進み、デンマークは今や、ペーパーレス社会へと移行しつつあります。そんな中で発生したコロナ・パンデミックは、これらのシステムが、非常時でも十分機能するかどうかが試される絶好の機会となりました。
グループ5以下の人たちのワクチン接種手順は次のようになっています。
- 携帯電話のSMS(ショートメッセージサービス)に、NemSMS(公的機関からのショートメッセージ)が入り、コロナワクチン接種を受ける可能性が来たことが知らされ、e-boks(行政機関などからの通知が入る電子郵便箱)で詳細を見るように促される。
- e-boksには、インターネットへのログインシステムnemIDに、自分の利用者IDとパスワードを入力して入る。その中にある保健局から届いた手紙を開くと、そこにはワクチン接種に関する情報が簡単に書かれており、文中に表記されている接種予約のホームページwww.vacciner.dkをクリックする。
- すると、自分が予約するまでにかかるおよその待機時間が示されるので、自分の番が来るまで待つ。(私の場合は、待機者が5000人程いて、待機時間は約1時間と表示された。実際は50分程度待った。ただ待機時間はその時の状況によるので、殆ど待たずに入れた人もいる。)
- 自分の番が来たら、住んでいる地域のワクチン接種会場リスト(自宅からの距離が近い会場順に表記されている)の中から受けたい場所を選択する。すると1回目接種が一番早く受けられる日時が赤字で表示されるが、それ以後の日時を選択することもできる。
- 希望日時を選択し、それをクリックすると、今度は2回目接種の日時予約ページに入るので、同じように可能かつ希望する日時を選択する。予約が完了したら、e-boksをログアウトする。
- しばらくすると、携帯電話のSMSに、どこのワクチンセンターで2回の接種をいつ受ける予約をしたかの確認メッセージが入る。
- 予約日には、予約時間少し前に会場に出向き、係員に自分の健康カード(日本の国民健康保険証のようなもの、カードにはパーソナルナンバー、住所氏名、家庭医氏名等が記載されている)を提示する。係員が健康カードのバーコードを読み取ると、自分の番が来るまで会場内で待機。
- 順番が来て指定されたブースに入ると、担当者(主として看護師)から熱があるか、アレルギー体質かなど2~3質問され、もし注意確認が必要な場合は、後ろに控えている医師に相談するが、特に問題なければ、すぐに注射が打たれる。接種後は、副反応や接種後の注意点が記載されている資料を受け取り、別に設置された休憩室で15分椅子に座って待機。
- 何の変化もなければ、そのまま退席。
- 2回の接種が終了すると、携帯電話に入れてあるMinSundhed(私の健康)というアプリの中にある「コロナパス」(Coronapas)に接種がいつ終了したかが表示される。(現在のコロナパスは暫定的なもので、5月には正式なパスが使用される予定。)またここには、いつどんな種類のコロナテストを受け、その結果がどうであったかも表示されるので、陰性結果を提示する必要がある場合(例えば現在美容室を利用する際など)に使う。
ここからもわかるように、インターネット接続が可能な市民の場合は、行政機関からの連絡から実際接種に至るまで、電話やペーパーは一切使わずに手続きを終えることができます。予約するのに多少時間がかかることがあっても、手順はいたってシンプルかつスムーズで、デンマーク人の夫までが感激したほどです。でもこのような文明の利器を何らかの理由で活用できない人は、どうすれば良いのでしょう?
デンマークでは、高齢者のインターネット接続率は75~89歳でも66%と高いので、後期高齢者=支援必要者とは限りませんが、インターネットへの接続がない人の場合は、行政から普通郵便で接種予約連絡が届き、そこに記載されている所に電話すると、行政担当者が予約手続きを本人に代わってしてくれるようです。
<ワクチンへの信頼度>
日本では、コロナワクチンに限らず、一般的にワクチン接種に対する信頼度が低いと聞いており、2019年6月には、「世界でワクチンの信頼度がもっとも低い国は日本とウクライナ」と国際的科学誌「Nature」で報道されたとか。
デンマークにも、ワクチンの効果に懐疑的な人がいないわけではありませんが、
一般的には肯定的な人が殆どで、特にコロナワクチンに関しては、積極的に接種を希望する人が圧倒的に多いように思われます。そんな中、3月に、デンマークをはじめ多くの国が入手したワクチンの一種アストラゼネカ(イギリス製)が、副反応としてごく稀に脳梗塞を引き起こす可能性があるかどうかが問題視され、デンマークは即刻、独自の調査検証をおこなうことを決め、使用を休止しました。
そして保健局は、今後このワクチンを使用しないことを4月14日に発表(世界初の決定)。また入手されたばかりのアメリカ製ワクチンについても、詳しい調査検証をおこなうこととし、使用はしばらくお預けとなりました。
想定外のことが、ここデンマークでも起きていますが、政府の機敏な決断と、安全性について慎重の上にも慎重を期す姿勢は、大半の国民から高く評価されており、政府や関係当局に対する信頼度は揺るぎないものがあります。これも、ワクチン接種への信頼度を高めている要因の一つかもしれません。
最後に、デンマーク感染症研究所のウェブサイトに日々掲載されるデータ数値(4月14日現在)をご紹介します。日々のデータ変化は、個人の携帯に入っているSmitte|stop(感染ストップ)というアプリでもチェックできます。
新規感染者: +663名
検査件数: PCR検査182,424件、クイックテスト239,101件
注:1日で約42万人がどちらかのテストを受けたことになる。テストは、各市に設けられた仮設テストセンターで受けられ、前者は要予約で結果は翌日、後者は予約なしで結果は約15分後にアプリMinSundhed(私の健康)に通知される。ロックダウンが徐々に解除されてきている現在、特に学校に通学している児童・学生や職場出勤している人は、週1~2回自主的に受けることが推奨されている。
死亡者数: +1名
ワクチン接種:17.0%(1回目終了)
8.0% (2回目終了)