<あれから>
コロナ・パンデミックに関する記事は、3月以来これまでに4回掲載してきました。まさか9ヶ月が経過した今になってもコロナ・パンデミックが終息しないとは、当時は夢にも思っていませんでしたが、日本でも、デンマークでも、そして世界中の多くの国々でも、パンデミック終息の兆しは、残念ながらまだ見られません。
デンマークのコロナ感染最新状況をかいつまんでお知らせしますと、
*感染者数 | 10月下旬以降1日の感染者数が1000人を超え、12月は日々約1500人を上回って推移。特に10歳代と20歳代が多く、無症状の人も多い |
*PCR検査 | 12月に入り1日約7万〜8万人が検査(無料)を受けており、中旬には10万人規模となる模様。1月27日からの累計PCR検査件数770万件、受検者350万人 |
*入院患者 | 12月4日現在全国で293人(うち集中病棟40人、重篤27人) |
*死亡者 | 12月4日現在累計867人(感染者累計86743人、死亡率1%) |
以上のように、デンマークでは、ここに来て感染者が特に首都圏や地方都市を中心にヤング層で増加していることへの危機感が高まり、全国98ある自治体中69の自治体に対して、厳しい感染拡大防止策を取ることが決まりました。(規制措置期限:12月10日から今のところ1月3日)
以下が主な規制内容です。(●は義務、○は推奨事項とされているもの)
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1.職場 |
〇公務員及び民間企業の可能な限りの在宅勤務を強く奨励 |
2.学校・教育機関 |
●4年生までは、クラスをまたぐ授業や活動の禁止 |
●5年生以上の生徒や学生は、自宅での遠隔授業に切り替える |
3.フリータイム |
●レストラン、バー、映画館、劇場およびその他の文化活動施設の閉鎖 |
●フィットネスセンター、屋内スポーツ施設(プール含む)の閉鎖 |
4.店舗、販売 |
●大型店、ショッピングセンター等において1平方メートル毎の顧客数をより少数にする (全国に適用) |
●小売店に入店できる人数の表示(全国に適用) |
●2000平方メートル以上の大型店、ショッピングセンター等での進行方向は 一方通行にする(全国に適用) |
○クリスマスの買い物は家族のうち1人が行う |
○必要に応じ混雑を避けるため営業時間の延長 |
○距離を保つために買い物カートの利用を推奨 |
○買い物カートと買い物かごの利用後の消毒 |
○歩行者天国での一方通行 |
5.検査 |
○検査体制の更なる強化 |
○全ての若者(15歳から25歳)が検査を受けることを奨励 |
12月中に約20万人の若者が検査を受けることになると予測されている。 |
6.集会 |
●クリスマスパーティーや大晦日パーティーを含む全ての集会は、10名まで(2月28日まで) |
日本における1日のPCR検査件数は、以前に比べると多くなっているものの、12月上旬は1日約35000件で、デンマークの半分以下ですから、両国の感染状況を単純に比較することは出来ませんし、したところで無意味でしょう。
今最も重要なことは、@国が明確かつ効果的な感染拡大防止策を国民に示し、国民がそれを遵守すること、A医療崩壊を起こさないこと、そしてB感染防止対策と国の経済のバランスを出来る限り保つことでしょう。もともと日本とデンマークでは、「社会はどうあるべきか」という基本的な考え方が異なることもあり、以上3点どれをとっても、日本とデンマークでは、相当考え方やアクションの取り方が異なるように感じています。今回はBに見る違いの一例をご紹介します。
<日本はGO TOキャンペーン、デンマークはホリデーマネーで消費拡大>
長引くコロナ禍で、外出自粛や旅行制限などが続いたため、どこの国でも宿泊施設・航空会社・旅行会社をはじめとする観光関連業界・小売店・飲食店などが大きな打撃を受けています。日本のGO TOキャンペーンはまさにこれらの業界を救済する一策として打ち出されたものだと思いますが、ここに来て、コロナ感染拡大が顕著な地域が対象から暫定的に除外されたり、高齢者や基礎疾患を持つ人たちの利用自粛が言われたり、キャンセル料は誰が負担するのか等、利用者にも対象となる企業にもかなり混乱が生じてきているように見受けられます。
ある日本の友人は、「このキャンペーンは、自動車を運転する際、アクセルとブレーキを同時に踏めと言われているようなものだ。」と表現しています。割引額・クーポン券・キャンセル料金などの費用を国が負担するということは、キャンペーンを利用する・しないに関わらず、国民の税金の一部がこれに充てられることを意味しますが、果たして全国民がこのキャンペーンを歓迎しているのかが問われるところでしょう。
デンマークでは、コロナ禍で大きな打撃を受けた企業に対し、業界を問わず、一定の条件付きで支援金を支給してきましたし、今回の更なる感染拡大防止対策で一時的に営業できなくなる企業に対しては、再度同様の措置が取られることになります。(3月掲載26号参照)
さらにこれに加えて、デンマーク政府は、国民の消費拡大を図る策として、巨額のホリデーマネーを放出するという大胆な施策を9月に打ち出しました。
この概要を説明しますと:デンマークには休暇法という法律があり、働いている人には、年間5週間有給休暇を取る権利が与えられています。2019年までは、この権利および支給金(ホリデーマネー)は職場に1年間勤務してはじめて得ることが出来ましたが、法律が改正されて、2020年9月からは、1年間待たずに翌月から休暇を取る権利が発生し、支給金も降りることになりました。そのため政府は、新しい法律へ移行する際に生じる全労働者対象の5週間分ホリデーマネーを暫時的に凍結させていました(さもないと改正年度における雇用者側の負担が倍増するため)。
政府は凍結させていたこの巨額のホリデーマネーのうち3週間分を、9月から12月の期間中に希望する労働者に支給することにしました(希望しない人は、退職時に支給されることになる。また残りの2週間分は、来春希望者に支給されることが決定した)。その結果、多くの働いている人たちが受給を希望して、3週間分のまとまったホリデーマネーを一度に受け取ることができたわけです。デンマークは共働きが当たり前の社会で、女性の就業率が高いため、夫婦揃って受給した場合は、一家にしてみればかなりの特別収入となるでしょう。これを何らかの目的のために貯蓄する人もいれば、したかったこと・欲しかったものを購入する費用に充てる人もいるでしょう。デンマーク人の個人貯蓄高は、現在これまでにない高レベルを示しており、また小売業界もここに来て空前の好景気を迎えていることが、下記のグラフからもわかります。
左のグラフ(小売業界の売上高指数、2015年=100) 右のグラフ(金融機関における個人貯蓄総額、単位10億クローネ)
海外旅行が自由に出来ない今、人びとの消費傾向は、家の改修工事・家具の買い替え・クリスマスプレゼントなどに向けられているようで、大工・左官業は大忙しですし、春に一旦落ち込んだ小売業界の業績も大幅に回復しています。特にデンマーク消費者のネット通販利用率は、長期コロナ禍で急増しており、クリスマスプレゼント購入の約1/3がネット通販になるだろうと予測されています。
<クリスマス・ショッピング>
たかがクリスマスプレゼントと思われるかもしれませんが、デンマークをはじめとする多くの欧米諸国のクリスマスは、一年を通じて最も大きなファミリー行事であり、多くの場合、プレゼントはクリスマスイブに集まる家族全員が全員に贈る習慣があります。私たち夫婦の場合を例に取ると、二人の娘一家全員が我が家でクリスマスを祝う年には、合計11人となり、プレゼントの数は40個を超えます。子どもたちは、幼稚園や学校で作った作品を親や祖父母に贈るのが常ですが、大人同士や大人から子・孫へのプレゼントは大半が購入品なので、ショッピングに充てる時間も費用も増して、どこの家庭でもこの時期になると、クリスマスが“クルシミマス”と思えるようになるものです。その点今年は、政府の消費拡大政策のお蔭で、例年よりお財布の紐が多少緩くなると推測されます。
また国民年金受給者やその他公的給付金を受給している人などホリデーマネー対象外の人たちには、全員一律1000クローネ(約16000円)が免税で支給されましたので、この層でも多少の消費増加傾向が見られるかもしれません。
<どうなる?コロナ禍でのクリスマス>
政府が頭を悩ましていたのは、誰もが待ちわびている最大年中行事クリスマスを、コロナ感染を拡大させずにどう乗り切るかということ。実家に帰省する人たちの流れ、多くの家族が一同に集まり数日間行動を共にすること、クリスマスイブの教会ミサ(例年この日は教会が大勢の人で溢れる)等々、どれをとってもコロナ視点からすると問題ありきです。今回政府から出された苦肉の策は、クリスマスホリデーの帰省はしても構わないが、家族の集まりであってもmax.10人の規則を厳守すること、祭日の教会ミサは実施してよいが、開催者には基本的な防止策を取る義務があるというものでした。
すでに集会max.10人の措置は11月から出されていたため、例年暮れに企画される企業単位のクリスマスランチ(日本なら忘年会)はどこもキャンセル、恒例のクリスマスマーケットも殆どキャンセル、暮れの街並みを飾るさまざまなイルミネーションも最小限に留まり、例年なら人とイルミネーションで華やかな雰囲気のコペンハーゲン市内も、どこか寂しさが漂っています。今年は仕方ないと人々は諦めているものの、せめて家族との暖かいクリスマスは実現させたいと願っている人は少なくないと思いますが、予定を変更せざるを得なくなるファミリーも出て来ることでしょう。
<各家庭の伝統>
11月最後の週末、我が家には娘たち家族全員がある目的のために泊りがけで集合しました。それは、恒例のクリスマスクッキー焼きとクリスマス用のいくつかの飾りを作るためです。我が家では毎年夫の祖母の代から伝わるレセピーで5種類のクリスマスクッキーを1日半かけて焼いています。今では娘たちと孫たちがこの作業を担当し、私は材料を揃えることと食事を供する役。
祖母から母・娘・孫娘へ、脈々と続いている我が家の伝統です。
焼き上がった5種類のクリスマスクッキー
クリスマス用のデコレーションは、玄関のドアに飾るリース、カレンダーキャンドル(12月1日から24日まで毎日火を灯していく)とアドベントキャンドル(クリスマス前の4週日曜に、第1週は1本、2週目は2本というように4本あるキャンドルに順々火を灯していく)で、主に小学生の孫たちが中心となって作ります。
孫たちが作ったクリスマス・デコレーション
そして多くの家々の垣根や植木には、LED豆電球が張り巡らされ、一日中薄暗い12月の住宅街を明るく照らしています。今年はライトアップして少しでも気持ちを明るくしたいと思う市民が例年より多いためか、LED豆電球が飛ぶように売れたようです。我が家でも、庭のテラスに10メートルのライトを取り付け、12月上旬からクリスマス気分を味わっています。
コロナ禍で迎える今年のクリスマスは、伝統を重んじるデンマーク人にとっては、試練のクリスマスになるかもしれません。けれども、実行できる伝統は出来るかぎり守り続けよう、社会の暗さをキャンドルやライトアップで一時忘れたいという気持ちは、例年以上に強まっているように思われます。
私にとっては、日本の年末年始がどうなるかも少々気になるところです。