デンマークの冬は、長く、寒く、そして暗いのが特徴です。冬至の頃の日照時間は7時間と短く、朝から晩まで薄暗い日が続きます。それでも12月には、クリスマスや大晦日パーティーなど楽しい行事が相次ぐため、人々はこの暗さをあまり苦にしませんが、年明けから2月にかけては、日が着実に長くなって来ているものの、どんよりとした天気の日が多く、なんとなく気持ちが塞ぎがちになります。
国営テレビ局(DR)特別番組の司会者たちと最終集計結果 撮影者:Nicolas C. Meier
そんな2月上旬、デンマークでは、国営テレビ・ラジオと12の慈善団体が連携して、年に一度の全国規模の募金運動が実施されます。今年もこの募金運動の最終日である2月2日土曜日に、国営テレビで夜7時から12時までの5時間、実況中継の大型特別番組が組まれました。
番組を見ている全国の視聴者は、この日のために設けられたコールセンターに直接電話して、一口150クローネ(約2700円)を寄付することが出来るほか、それ以外の金額を寄付したい場合には、その金額を提示すると、スタジオに設けられた特別コールセンターにつながり、これをボランティアで受けてくれる国会議員や俳優・歌手などの著名人と直接話しをして希望金額を寄付できるようになっています。また携帯電話のSMSを利用すると、1回の送信で150クローネが自動的に寄付される(電話料金が加算される)システムも導入されていて、誰もが気軽に参加できます。
さらに放送当日に限らず、ある一定期間に企業、学校、団体、地域のクラブなどが自主的にさまざまな方法で募金運動をおこない、話題性が高いケースだと、最終的に集めた額の小切手をテレビに出演して司会者に直接手渡すことも可能です。デンマークの著名企業の中には、毎年1000万〜5000万円レベルの寄付をしてくれるところがありますが、中小企業や小さな団体組織でも、1万クローネ(約18万円)以上寄付すると、番組放送中にその企業・団体名と寄付金額が何回もテロップで流れるので、社会的責任を果たしているというイメージアップにつながり、ある程度の宣伝効果も期待できます。
今回私が一番感動したのは、人口1300人ほどの小さな地方の町の小中学生が中心となり、学校だけでなくスポーツクラブ・商店・教会・老人ホームなど、まさに町ぐるみでおこなった募金活動で、10万クローネ(約180万円)を集めたケースでした。学童代表数名がテレビに出演して経緯を紹介したあと、主催者に小切手を誇らしげに手渡しましたが、金額もさることながら、学童からお年寄りまで多くの住民たちが、1つの目的のために知恵を出し合って動いたことで、町住民の絆が強まり、さらに子どもたちが「自分たちもこれだけのことができる」という自信をつけたことに、私を含む多くの視聴者が心を動かされたのだと思います。
番組で紹介されたケースストーリー(バングラデシュの少女)撮影者:Olle Hallberg デンマーク赤十字社提供
さて、では、この募金運動はいつから始まり、集まったお金は何のために使われるのでしょうか?
デンマークでは、2007年にこの募金運動が始まりましたが、その目的は、国連が唱える「持続可能な世界発展のための17のゴール」の精神にもとづき、世界の貧困地域に住む人々が抱えているさまざまな問題の中から毎年テーマを1つ選び、実践的な支援活動を12の慈善団体を通じておこなうための資金調達にほかなりません。
初年度のテーマは「HIV・エイズ対策」、2年目は「こどもの死亡率」、3年目は「貧困家族」、4年目は「アフリカの女性たち」・・・と続き、昨年は「家のないこどもたち」、そして今年は、「しいたげられている女子たち」への支援でした。このようなテーマの支援活動は中・長期的なもので、大規模被災地への救援活動のような緊急性が薄いため、人々に訴える力が弱いように思われがちですが、ご紹介しているデンマークの特別番組では、刻一刻と集まる募金状況をフォローしたり、著名ミュージシャンの演奏などの合間に、前年度集めた資金で具体的にどのような支援活動をおこない、どのような成果が得られたか、そして今年のテーマである「世界中のしいたげられている女子」への支援とは、具体的にどのようなもので、どのような効果が考えられるかを、ケースストーリーを映像で紹介したり、支援活動に関わっている人たちにインタビューするなどして、視聴者にわかりやすく訴えかけています。
デンマークのメアリー皇太子妃も「しいたげられている女子たち」の救済運動に積極的に参加、放送中にインタビューで実情を説明
出所:DR News 2019年2月2日
ここで言う「しいたげられている女子たち」とは、世界の貧困地域において、貧しさゆえに子ども(特に女の子)が学校に行けない、あるいは労働力として売られたり、未成年で望まない結婚を強制されたり、レイプを受ける等、人権を軽視・無視されている若い女性たちを指しています。そして、これらの女性たちが支援活動を通じて過酷な現状から抜け出して教育を受けたり、収入の道が開かれるようになれば、本人は勿論のこと、その家族や子どもたち、ひいてはその地域全体にもプラス効果を与えることになるだろうというのが、今回の募金運動のスローガンでした。
翌日の新聞には、最終的に約7200万クローネ(約12億9600万円)が集まったという記事が載りました。これまでの13年間の年間平均集計金額は約15億円で、今回は残念ながらそれを少し下回りましたが、国をあげてのこの募金運動は、その金額の多少にかかわらず、季節がら暗くてふさぎがちなデンマーク人の心に、一筋の明るい光を投じてくれる、そんな効果を持っているように思われます。
当然のことながら、こうして集めた貴重な資金を具体的な支援活動に繋げる12の団体(国際的な規模の団体としては、赤十字・ユニセフ・国境なき医師団・セーブ・ザ・チルドレンなどが挙げられる)には、ガラス張りの資金運用、プロフェッショナルな裁量そして具体的に結果を出すことが強く求められています。
我が家では、夫が携帯電話のSMSを4回送って合計600クローネ(約1万円)を寄付しました。それは、番組中にアウディ社が景品として提供した新車のどれかが当たると良いけれど・・・という裏のモチベーションが働いたからでもありますが、車を結局ゲットできなくても、募金運動に参加したことで、いつもよりほんの少し晴れ晴れとした明るい朝を迎えることができました。