デンマーク・日本いろいろ 第15号
「夏休みの過ごし方」
2018年8月
今は夏休みの季節。日本の学校は7月下旬から夏休みに入りましたが、デンマークでは、日本より1ヶ月早く、6月下旬から始まり、8月第2週まで約7週間続きます。共働き夫婦が当たり前のデンマークでは、この長い夏休みに子どもたちがどう過ごし、家族でどこに旅行するか、その計画を立てることは、ワクワク楽しいものですが、親にとっては多少頭痛の種でもあります。    
一般的に、デンマークの勤労者の有給休暇は年6週間で、学童のいる家庭の場合は、子供たちの学校が休みの時期に合わせて休暇を取る人が多いようです。ただ有給休暇すべてを夏に充てることは、仕事面でもかなり難しいですし、他の時期に全く休暇が取れなくなるのも困るので、大半の家庭では、両親が休みに入る時期を少しずらして各自3週間ほど取るなど、出来るだけ子どもたちと共に過ごす日数が長くなるような工夫をしています。そして両親が出勤している期間は、子どもを祖父母に預けたり、学童保育を利用したり、市が企画する学童のためのさまざまな夏季教室(通常月~金の5日間、8~15時、夏休み前に申し込む、有料)に参加したり、あるいは子どもが所属しているスポーツクラブの夏季キャンプなどに参加することになります。
例えば、次女一家の例を取りますと、今年は、第1週目:親は仕事で、孫たちは学童保育やクラブ活動に参加、第2~4週目:家族全員(両親+中学生1人+小学生2人+犬1匹)で1週間国内のサマーハウス滞在、その後ヨーロッパを車で移動してオーストリアに1週間、北イタリアに1週間滞在、5~7週目:親は徐々に仕事に復帰、孫たちは私たち祖父母と数日間行動を共にし、残りの期間は、市が企画する各種夏季教室に参加することが決まっています(姉:料理教室、妹:水泳教室、弟:水泳+ロールプレイ教室)。
家族全員で長期間にわたり国内外を旅行するとなると、当然かなりの費用が掛かります。デンマークでは日本のようなボーナス制度がありませんので、この費用を月々の給与の中から少しずつ積み立てている家庭が多いようです。また海外旅行といっても、ヨーロッパは陸続きなので、自家用車にキャンピングカーを繋いだり、テントを積んで各地のキャンプ場に滞在する家族もあれば、夏休みを過ごしたい国・地域の農家や一般家庭に民泊したり、格安リゾートチャーター旅行を利用したり、多くの選択肢の中から各家庭の懐事情に合ったスタイルを選べるため、一般家庭でも実現可能ですし、夏休みの過ごし方は、家庭により千差万別であるわけです。また諸事情により親子一緒に夏休みを取りにくい家庭の場合は、ボランティア団体が企画するサマーキャンプや、市の夏季教室参加の無償サービスを利用することが出来ます。
それにしても、日本とデンマーク(あるいは欧米諸国)では、夏休みの過ごし方がなんと異なることでしょう。今年も日本から知人・友人数名が我が家を訪ねてくれましたが、現役の方たちは、1週間休暇を取るのが精一杯とのことで、数日間の短い滞在でした。40年以上前、日本人サラリーマンの夏休みは取れてもせいぜい1週間程度だったと記憶しています。それから日本人の働き方は、時代と共にかなり変化してきたと思うのですが、こと休暇になると、状況は以前と殆ど変わっていないような気がしてなりません。
デンマーク人は、有給休暇は勤労者の権利だと考えていますので、当然、出来るだけその権利を使い切ることを考えます。と同時に、効率よく働く上で、適度に休みを取ることは必要だとも考えているので、デンマーク人にとっては、有給休暇は「権利」であると同時に「義務」といえるかもしれません。日本人がここまで意識を変えることは難しいでしょうし、その必要はないかもしれませんが、共働き家庭が増えてきている昨今、働くことへの意識と同時に、休むことへの意識もあわせて変えていく必要があるように思います。日本人勤労者の夏休みの短さは、いまだに、欧米の人たちには信じがたいほどの短さなのです。
親子で一緒に過ごす夏休み。この貴重な時間と体験の共有は、決して永遠に続くものではありません。デンマークでは、子どもたちが17~18歳にもなると、親と行動を共にするより、友人と旅をすることや、自分の希望するアクティビティーに参加することを好む傾向が強くなり、またその費用を捻出するため、夏季アルバイトを始めるようになります。子どもの自立と親離れが進むにつれて、親と子の夏休みの過ごし方も袂を分かつことになるのです。
それはそうと、夏休みの宿題はどうなっているのだろう?こんな疑問を抱かれる方がいるかもしれません。8月に新学期を迎えるデンマークでは、学校から夏休みに宿題や課題が出されることは一切なく、親子ともども、これに悩まされる心配はありません。最近、家の奥に長年しまい込んでいた古い資料を整理していましたら、なんと小学校一年生の時の絵日記が出てきました。あまりの懐かしさに一人感動し、孫たちにも見せたのですが、夏休み中、親にせかされてしぶしぶ書いた絵日記の思い出を持たない彼らには、どうも私の感動は伝わらなかったようです。