デンマークでは選挙投票日は常に平日の火曜日と決められています。
そして11月21日(火)は、4年に一度の統一地方選挙投票日でした。
2007年に実施された大幅な行政改革以降、デンマークの地方行政は、医療サービスを管轄する5つのリジョンと、義務教育や福祉サービス全般等を管轄する98のコミューンが担当しており、どちらも地方議会を有するため、全国全てのリジョンおよびコミューンの統一選挙が同日におこなわれます。
私は日本国籍を保持しているので、デンマークの国政選挙への参政権は持っていませんが、デンマークでは、3年間デンマークに居住(住民登録)している18歳以上の外国籍市民に地方選挙への参政権を与えているため、私も一票を投じることが出来ます。(なおEU圏およびアイスランド・ノルウェー国籍所有者は、デンマーク人と同等の扱いになっています。)日本では、永住外国籍市民の参政権に関する議論や裁判がこれまでたびたびありましたが、日本国憲法に「国民固有の権利」と明記されているため、未だに外国人の参政権は認められていません。多くの人は、参政権の有無について普段ほとんど考えることはないかもしれませんが、当事者の立場からすると、その国に長年生活基盤を置いて、仕事をし、家庭を築き、市民としての義務を十分果たしている永住外国籍市民が、少なくとも地方選挙において参政権を持つことは、当然の権利だと思うのですが・・・。投票日が巡ってくるたびに、両国における外国籍市民への扱いの違いを感じてしまいます。
さて投票日前の選挙運動ですが、デンマークでは、国政選挙・地方選挙を問わず、戸別訪問、街頭演説、自動車から拡声器で自己宣伝することが禁止されており、選挙運動と言えば、街灯や街路樹にポスターを掛けることと、さまざまな団体が企画する討論会に参加して各自の主張を訴えること程度で、日本の選挙運動とは違い、いたって静かです。ただ選挙期間中に町のあちこちに掛けられるポスターは、多少目障りで景観を損ねるものですが、投票日後2週間以内に撤去しないと罰金が科せられるため、特に問題はありません。
いよいよ投票日。主な投票場は地域の公立小中学校で、投票時間は朝8時〜夜8時で、即日開票されます。(勿論期日前投票も可能です。)投票用紙はリジョン用とコミューン用の2枚。どちらにも政党および立候補者リストが列記されており、その中から支持する政党と立候補者を選びますが、政党のみ選ぶ事も可能です。実際投票にあたり、リジョンの政治家の顔を知らない有権者が多く(私もその一人なので)、支持政党のみ選んだ人も多いようです。
デンマークでは、投票日の夜、家族や友人が集まって夕食を共にし、テレビで刻一刻報じられる選挙情報を見守りながら、ビールやワイン片手に政治談議に興じる習慣があります。我が家でもその習慣が続いており、娘達一家は当然私達両親がその晩招待してくれるものと当てにしていたようですが、仕事の都合でそれが出来なかった今回は、長女一家がしぶしぶホスト役を引き受けてくれました。デンマークには、投票日に出す特別なメニュー(豚肉のステーキ)もあるぐらいで、選挙は国民にとり、極めて大きなイベントになっているのです。
今回の地方選挙結果を見ますと、まず一般的に、現在国政を担っている右派政党が伸び悩み、野党第一党の社会民主党が伸びましたが、デンマークでは、通常、過半数または最大多数の議席を獲得した党から市長が選出されることになっており(ここも日本の直接選挙と異なる)、選出された市長の数では、社会民主党が全体の48%を占めました。そしてその中の一人は24歳の女性で、ここに史上最年少の市長が誕生しました(これまで選出された最年少国会議員は21歳の女性)。なお今回の地方選挙の投票率は、前回2013年より1.8ポイント下がり、70.1%という結果になりました。国民の関心は、デンマークでも国政の方が強いため、総選挙の投票率が常に上回りますが(2015年の総選挙投票率は、85.8%)、それでも18歳以上の国民の70%を超える人が地方選挙で投票したということは、国民の政治に対する関心の強さを物語っているように思われます。ちなみに、今年10月におこなわれた日本の衆議院選挙の投票率は53.68%で、戦後2番目に低かったことは皆さんご承知の通りです。
最後に議員の男女比ですが、今回の地方選挙では、前回2013年選挙より10%多くの女性議員が誕生しました。しかしその占める割合は未だに全国で33%。これは他の北欧諸国より低く、女性議員が過半数を占めるコミューンは、全国で1か所しかありません(ゲントフテ市、19人中11人)。世界ジェンダーギャップ指数(2016年5月の記事参照)でもデンマーク女性の政治参加が思いのほか低いことが指摘されているので、ここは大いに改善の余地ありと言えるでしょう。