いま日本では、夏の参議院選挙を前に、安倍首相が消費税の引き上げを再度2年半延期することを表明し、この選挙を通して国民の信を問うことになりました。今年の夏は、政治面でも猛暑になる気配です。
税負担が重くなることを喜ぶ人はまずいないでしょうが、社会や経済状況の変化などにより、どうしても必要となる財源を確保するためには、国は、借金をさらに増やすか、何らかの方法で税収入を増やして補うか、いずれかを選択することになると思うのですが、今回安倍首相は、現時点では、そのどちらでもなく、アベノミクスのエンジンを最大限ふかし、民間投資を喚起し、総合的で大胆な経済対策を取って、社会保障充実を目指すと説明しています。はてさて、これらの施策で具体的にどれだけ財源が確保出来るのか、理解しにくいところです。
これまで日本は、税金を上げることを出来るだけ抑え、その穴埋めを借金でカバーして来ました。その債務残高は、現在国民一人当たり1000万円を超えると言われています。雪だるま式にふくらんだ借金は、誰が返済することになるのでしょう。次世代への負担をこれ以上増やさないためにも、国民の理解を得て、消費税を引き上げる道を取るはずだったわけですが、どうもこの政策は、日本の政治家にはかなり勇気がいることのようです。過去の経緯を見ても、1979年大平内閣が消費税導入閣議決定→断念、87年中曽根内閣売上税法案→廃案、88年竹下内閣消費税法成立3%、94年村山内閣4%へ引き上げ、2010年菅内閣10%提案→選挙惨敗、2012年野田内閣14年8%、15年10%へ引き上げ法案可決成立、2014年4月安倍内閣8%引き上げ実施、同年11月増税延期決定というように、増税は政治家の政治生命にも繋がる高リスクな政策であることがわかります。
では高税国と言われているデンマークの消費税は、これまでどのように推移してきたのでしょうか。デンマークでは、1962年に卸商品のみ対象とする課税9%が導入され、67年には小売商品も含めた消費税10%導入、68年12.5%へ引き上げ、70年15%、77年18%、78年20.25%、80年22%、92年25%と相次いで引き上げられて現在に至っており、今のところ、さらに引き上げるという話は出ていません。70年代のオイルショックを皮切りに、約20年間不況が続いたデンマークでは、それまで築いてきた社会保障などの公的サービスレベルを維持するためには、やむをえないことだったと言えるでしょう。
それにしても、このような続けざまの増税に対し、国民からの反発はなかったのでしょうか。なかったと言えば嘘になります。事実70年代には、増税反対を唱える政治家が出て、それに同調する人々の声を集約して新党が誕生しましたし、一部の企業や高所得者は、資金や資産を海外に移したり、移住する人も出ました。しかし、「増税は痛いけれど、必要なのだから仕方ない」というのが大半の国民のスタンスであったようです。日本とデンマークで、どうしてこれほど国民の反応が違うのか、不思議に思われるかもしれませんが、詰まるところは、政治家に対する国民の信頼度の違いではないかと考えます。汗水流して働いて得た収入の多くを税金として納めるからには、それが社会のために有効に使われなければならない。政治や行政に携わる者は、それをちゃんとしてくれていると国民が信用しているかどうかです。デンマークの総選挙投票率が常に高いのは、国民が政治に関心を持ち、政治家を監視していることの証です(前回2015年6月総選挙投票率85.9%)。
ちなみに、デンマークの消費税率(対象外品目は教育活動のみ)は、世界的にトップクラスですが、現在はトップの座を他国に譲っています。1位はハンガリー27%、2位アイスランド25.5%、3位デンマーク/スウェーデン/ノルウェー/クロアチア25%、7位フィンランド/ルーマニア24%です。またアジア近隣諸国を見ると、中国17%、インド12.5%、フィリピン12%、韓国10%、インドネシア10%となっています。たかが8%と言うつもりはありませんが、世界的に見れば低いということを理解し、国の家計をどうすればよいかを私たち一人一人が考えた上で、夏の参議院選挙に臨みたいものです。投票率にも注目しましょう。
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